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日本の乳児に対する、RSウイルス感染予防対策としての母子免疫ワクチンと長時間作用型抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤の投与の考えかた

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日本小児科医会 公衆衛生委員会

RSウイルス(以下RSV)感染症は、乳児の急性下気道感染症および入院の重要な原因である。WHOは、RSVが世界の小児における急性下気道感染症の主要原因であり、5歳未満児において毎年約10万人が死亡、360万件を超える例が入院し、死亡例のおよそ半数が生後6か月未満の乳児に集中するとしている[1]。


日本においても、RSVは乳幼児に広く感染し、生後1歳までに50%以上、2歳までにはほぼすべての乳幼児が初感染するとされる。また、初感染例の約20〜30%では気管支炎や肺炎などの下気道症状を来すことがある[2]。


近年、日本のRSV感染症の流行動態は従来の季節性だけでは説明しにくくなっている。感染症発生動向調査では、2018年および2019年は第37週にピークがみられた一方、2021年は第28週、2022年は第30週、2023年は第27週にピークを示し、2024年は明確なピークを形成せず、第16週から第32週まで同程度の流行レベルが続いた[3]。また、COVID19パンデミック後には都道府県ごとに異なる流行波がみられ、2023年には東日本と西日本でピーク時期の違いも観察されている[3]。


このような状況を踏まえると、日本では、RSウイルス流行期を単純に予測して、RSV母子免疫ワクチンまたは抗体製剤のいずれか一方だけを選択する運用には限界がある。 WHOも、RSVの季節性が明確でない地域、または年ごと・国内地域ごとの流行変動が大きい地域では、季節限定ではなく通年アプローチが実装しやすいとしている[1]。


国内の地域データからも、乳児への疾病負担は明らかである。日本小児科学会埼玉地方会の「RSウイルス感染症入院患者の動向調査」では、RSV入院例の多くが0歳および1歳に集中している[4]。また、埼玉県RSV感染症流行監視ワーキンググループは、2025年2月時点で、2025–26シーズンの流行が予想より早く始まる可能性を示し、ニルセビマブ、パリビズマブの早期投与開始を考慮し通年性投与とする必要があるとしている[5]。


さらに、予防接種推進専門協議会は、RSV母子免疫ワクチンの早期定期接種化と、抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤を広く提供するための体制整備を要望している[6]。


同要望書では、日本ではRSV感染症の流行期が地方ごとに異なり、明確な流行期の見極めが難しいことから、通年で接種可能なRSV母子免疫ワクチンによる予防が重要であると述べられている[6]。また、国内でRSV感染症により入院する児のおよそ9割は基礎疾患のない正期産児であるとされ、従来の高リスク児に限定した予防戦略のみでは、乳児全体の疾病負担を十分に軽減することは困難である[6]。


WHOは、乳児の重症RSV疾患予防のために、RSV母子免疫ワクチンまたは長時間作用型モノクローナル抗体製剤の導入を各国に推奨しているが、どちらを用いるかは、費用、費用対効果、供給、カバー率、既存医療体制での実装可能性を考慮すべきとしている[1]。また、同一母児ペアに対してroutineに両製品を用いることは推奨していないが、母子免疫ワクチン接種後14日未満の出産であった場合や、母体由来抗体が減衰した後も重症化リスクが高い乳児が初回RSV流行シーズンに入る場合には、長時間作用型モノクローナル抗体製剤を用いる選択肢を認めている[1]。


したがって、日本におけるRSV感染症予防では、RSV母子免疫ワクチンと抗体製剤のどちらか一方のみ投与するのではなく、両者を母児一体型の予防戦略として制度設計する必要がある。妊娠後期の母体RSVワクチンは、出生直後から乳児期早期を守る重要な手段である。一方で、日本ではRSV感染症の流行時期が地域や年によって変動し、流行期を正確に予測することが難しいこと、またRSV感染症による入院例の多くが基礎疾患のない正期産児であることを踏まえると、乳児期の感染を直接防御できる長時間作用型抗RSVモノクローナル抗体製剤を、より広く提供できる体制の整備が不可欠である[4-6]。


母子免疫ワクチンを接種できなかった児、接種から出生までの期間が短く十分な抗体移行が期待しにくい児、早産児、重症化リスクを有する児に加え、母体由来抗体が減衰した後に初回RSV流行期へ入る乳児に対しては、抗体製剤を確実に使用できる制度設計が必要である。さらに、流行期の予測が困難な地域では、出生時または出生後早期から抗体製剤を活用できる体制を整えることが、RSV感染による乳児期の入院および重症化を減らすうえで実効性の高い方策となる。


これは、同一母児ペアに一律に二重投与を行うことを意味するものではない。しかし、日本の流行特性と疾病負担を考慮した場合RSV母子免疫ワクチンのみではカバーしきれない乳児を守るため、抗RSVモノクローナル抗体製剤を予防戦略の補完的手段にとどめず、乳児RSV重症化予防の重要な柱として位置づけ、費用面を含めたアクセス改善と実施体制の整備を早急に進めるべきである[1,6]。



参考文献

  1. World Health Organization. WHO position paper on immunization to protect infants against respiratory syncytial virus disease, May 2025. Wkly Epidemiol Rec. 2025;100(22):193-218. Available from:
    https://www.who.int/publications/i/item/who-wer-10022-193-218
  2. 国立健康危機管理研究機構. RSウイルス感染症 [Internet]. 2025 Jun 26 [cited 2026 Jun 30]. Available from:
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/alphabet/rs/
  3. 国立健康危機管理研究機構. 感染症発生動向調査でみる2018~2024年のRSウイルス感染症の疫学 [Internet]. 2025 Aug 8 [cited 2026 Jun 30]. Available from:
    https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/rsv/010/index.html
  4. 日本小児科学会埼玉地方会. RSウィルス感染症入院患者の動向調査 [Internet]. [cited 2026 Jun 30]. Available from:
    https://jps-saitama.jp/rsv-totally/
  5. 日本小児科学会埼玉地方会. 埼玉県RSV感染症流行監視WGからのお知らせ [Internet]. 2025 Feb 6 [cited 2026 Jun 30]. Available from:
    https://jps-saitama.jp/2025/02/20250206/
  6. 予防接種推進専門協議会. RSウイルス母子免疫ワクチンの早期定期接種化ならびに抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤を広く提供するための体制整備に関する要望書 [Internet]. 2025 Apr 8 [cited 2026 Jun 30]. Available from:
    https://vaccine-kyogikai.umin.jp/pdf/20250409_Request_for_early-routine-RS-virus-maternal-immunization_a-system-to-widely-provide-human-monoclonal-antibody-products-against_RS-virus.pdf
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