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外来診療における小児急性呼吸器感染症に対する 多項目遺伝子関連検査の実施指針 (第一版 令和8年6月);多項目遺伝子関連検査実施指針作成合同ワーキンググループ

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一般社団法人日本小児感染症学会・一般社団法人日本外来小児科学会・公益社団法人日本小児科医会多項目遺伝子関連検査実施指針作成合同ワーキンググループ


Ⅰ.背景と指針作成の目的

小児急性呼吸器感染症は、ウイルスおよび細菌など多様な病原体により引き起こされ、その臨床像は多彩であることが多い。近年、ウイルス・細菌核酸多項目同時検出検査(以下、多項目PCR)の普及により、複数の病原体を迅速かつ同時に検出することが可能となり、早期診断、診断精度の向上および治療方針選択への寄与が期待されている。 一方で、小児の呼吸器感染症では、無症候者の病原体の保有、病原体の排出の遷延、および重複感染など、検査結果の解釈に特有の課題があり、検査の適応および運用には慎重な判断が求められる。また、多項目PCRは有用であるがゆえに熟慮なしに実施されれば、医療資源の不適切な消費に加え、検出病原体を原因病原体と過剰に解釈することや、保護者・患者の不要な不安を招く可能性がある。 昨今、百日咳など小児領域を中心とした感染症の流行がみられており、重症化を防止するための流行感染症の早期認知は重要である。小児科外来診療においては、これらの流行感染症の早期診断、原因不明発熱時の鑑別、基礎疾患をもつ児の迅速診断に実際上の必要性がある。 本指針は、外来診療における小児急性呼吸器感染症に対する多項目PCRの適切な使用を推進し、必要な症例の検査機会を守ると同時に、過剰な実施を抑制し、診療の質の向上、感染対策および抗微生物薬適正使用に寄与することを目的として作成する。


Ⅱ.対象となる検査および目的

呼吸器感染症の原因となるウイルスおよび細菌を対象とした多項目PCRを対象とし、単項目遺伝子検査は含まない。検体は鼻咽頭拭い液を基本とする。必要に応じて、検査性能および臨床状況を踏まえ、適切な検体採取を行う。


多項目PCRの目的は、以下のとおりである。


  1. 病原体の早期推定又は同定による治療方針決定
  2. 抗微生物薬の適正使用、特に不要な抗菌薬投与の回避
  3. 抗微生物薬投与、追加検査、紹介、入院等の判断補助
  4. 必要な感染対策の実施

Ⅲ.適正使用の基本原則

  1. 多項目PCRは、すべての発熱患児又は呼吸器感染症患児に一律に実施する検査ではない。
  2. 検査の適応は、小児においては年齢のみで一律に制限せず、臨床症状、重症度、重症化リスク、ならびに検査結果が治療方針に影響を与える可能性等に基づいて判断する。
  3. 同一感染エピソードにつき1回の実施とする。
  4. 感染症の流行状況、臨床症状、接触歴等から特定の病原体が強く疑われる場合は、迅速性、解釈容易性および医療資源の適正配分の観点から、単項目検査を優先する。
  5. 多項目PCRは、治療法の選択、追加検査、高次医療機関への紹介、入院判断、感染対策、抗微生物薬の開始・中止・変更等、具体的な診療行動又は治療方針の変更につながる可能性がある場合に実施する。
  6. 保護者への説明に際しては、検査の目的と限界を丁寧に伝えることが求められる。

補足:ChoosingWiselyは、エビデンスに基づき、重複がなく、害が少なく、真に必要な医療を選択するための取り組みであり、AmericanSocietyforClinicalPathologyの推奨では、広範な呼吸器病原体パネルの過剰使用が適正化の対象として取り上げられている(1)。小児集中治療領域の報告でも、呼吸器ウイルスPCRパネル検査のルーチン実施を避け、診療方針に影響し得る病原体については標的検査を優先する方針が示されている(2)。本指針の基本原則も、このChoosingWiselyの適正使用原則と同じ趣旨である。多項目呼吸器病原体パネルの特性や限界についても、検査結果が診療方針に与える影響を踏まえて使用する必要がある(3)。


Ⅳ.推奨される保険医療機関

検査結果の適切な解釈および診療への反映のため、以下の体制を有する医療機関での実施を推奨する。


  1. 小児呼吸器感染症診療に習熟している医師が診療にあたっていること。
  2. 必要に応じて、小児感染症認定医・専門医、臨床検査専門医、入院受入施設等と連携可能であること。
  3. 検査結果を速やかに診療へ反映できる体制を有すること。
  4. 検査適応、結果解釈及び算定の妥当性について、院内又は地域連携の中で確認し、適正使用の維持に努めることが望ましい。

Ⅴ.対象患者


1.重症又は入院を要する可能性があると判断される症例

SpO₂低下、努力呼吸、頻呼吸、無呼吸、チアノーゼ、哺乳不良、脱水、活気不良等を認め、病原体同定が初期対応、紹介又は入院判断に有用であると考えられる症例。


重症度の評価にあたっては、日本小児呼吸器学会及び日本小児感染症学会の「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022」における上気道炎の重症度分類(Westleyのクループスコア又は気道狭窄の程度の評価で重症以上)、又は同ガイドラインに定める小児市中肺炎の重症度分類を参照する。


2.重症化リスク因子を有する症例

生後6か月未満、早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患、代謝性疾患、神経筋疾患、免疫不全、染色体異常、医療的ケア児、その他主治医が重症化リスクを有すると判断した症例。

3.検査結果が治療方針決定に影響を与える可能性が高い症例

以下のように、病原体同定が具体的な治療方針の決定につながる症例を含む。


  • 抗微生物薬(抗菌薬・抗ウイルス薬)の開始、中止、又は選択の見直しに資する場合。
  • 百日咳、マイコプラズマ等を早期に診断することで、治療法の選択又は周囲への感染対策実施に有用である場合。
  • 原因不明の発熱又は非特異的呼吸器症状において、鑑別診断が必要な場合。
  • 基礎疾患のある児等で、病原体の早期把握が経過観察、再診指示、紹介判断等に有用である場合。

4.単一病原体による説明が困難であり、診療方針決定に資する症例

呼吸器症状を呈する疾患で、疫学的情報、臨床経過又は重症度から単一病原体による説明が困難であり、病原体同定が治療方針の決定に資すると判断される症例。


Ⅵ.結果の解釈

  1. 検査結果は、臨床症状、身体所見、流行状況、接触歴、発症からの時間経過に加え、胸部画像検査、血液検査、培養検査、抗体検査等の他の検査所見を踏まえて総合的に判断する。他の検査所見又は臨床経過と矛盾する場合は、多項目PCRの結果のみで診断や治療方針を決定しない。
  2. 検出された病原体が、必ずしも現在の主病因とは限らない。無症候者の病原体の保有、病原体の排出遷延および重複検出があり得ることに留意する。
  3. ウイルスのみの検出結果は、細菌感染の存在を否定するものではないが、臨床所見や他検査所見と合致する場合には、不要な抗菌薬投与の回避又は早期中止を検討する根拠となり得る。
  4. マイコプラズマ等、一部病原体では検体採取部位や発症時期により偽陰性があり得るため、陰性結果のみで否定しない。
  5. 経鼻弱毒生インフルエンザワクチン接種後など、予防接種歴が検査結果の解釈に影響する場合があるため、接種歴を確認する。※
  6. 多項目PCRは臨床判断を代替するものではなく、臨床判断を補強する補助的診断手段として位置付ける。

※:経鼻弱毒生インフルエンザワクチン接種後には平均2日(4)、最大28日(5)、鼻咽頭検体のPCRでワクチン株由来のインフルエンザウイルスが検出され得る。


Ⅶ.薬剤の適正使用と薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)対策

  1. 多項目PCRは、ウイルス感染又は特定病原体の同定を通じて、不要な抗微生物薬投与の回避および適切な抗微生物薬選択に寄与する。
  2. 各医療機関は、多項目PCRの実施後における抗微生物薬使用の妥当性について、診療録等を通じて確認し、検査が実際に治療方針へ結びついているかを振り返ることが望ましい。

Ⅷ.今後の展望

多項目PCRによる病原体検出情報は、百日咳、マイコプラズマ肺炎等の流行感染症の早期認知や地域サーベイランスの補助として、今後さらに活用される可能性がある。可能であれば、病原体の検出状況を地域感染症発生動向調査などと共有することも検討される。


ただし、個別症例に対する検査の主たる実施根拠は、あくまで当該患児に対する医学的有益性である。疫学的意義は重要であるが、本指針では副次的意義として位置付ける。


検査系によっては、Ct値、Cp値などの半定量情報が得られる場合がある。しかし、その臨床的有用性については現時点で十分なエビデンスが確立しているとはいえないため、現時点では治療判断への直接反映は推奨しない。今後、測定系の特性、検体採取条件、発症時期等を踏まえた補助的情報としての意義について、さらなる検討が望まれる。


外来で蓄積された検出データの共有方法、希少病原体や新規亜型への対応、また保険適用との整合性については今後検討を要する。


Ⅸ.まとめ

多項目PCRは、小児急性呼吸器感染症において有用な診断手段であるが、検出結果が直ちに臨床的因果関係を意味するものではなく、その解釈と適応の判断には限界がある。小児科外来では、年齢のみで画一的に適応を判断するのではなく、臨床症状、重症度、重症化リスク、治療方針への影響に基づいて、必要な症例に選択的に実施することが基本である。同時に、過剰実施を抑制し、限られた医療資源を医師の専門的判断のもとで適正に用いる姿勢が求められる。


参考文献

利益相反

各所属団体の定める利益相反に関する開示項目はありません


参考資料1:Westley のクループスコア

Westleyscoreは1978年にWestleyらによって作成されたクループの重症度スコアである。


Westleyscoreではクループの重症度を意識レベル、チアノーゼ、喘鳴、空気の入りおよび陥没呼吸の5つの因子で評価する。これらのスコアを合計して重症度を判断する。

合計スコアは2点以下が軽症、3-7点が中等症、8点以上が重症と規定されている。 WestleyCR,CottonEK,BrooksJG.NebulizedracemicepinephrinebyIPPBforthetreatmentofcroup:adouble-blindstudy.AmJDisChild.1978;132(5):484-487.


参考資料2:気道狭窄の程度の評価

各列のいずれか1つの症状・徴候があれば、その重症度とする。


日本小児呼吸器学会,日本小児感染症学会,編.小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022.東京:協和企画;2022.


参考資料3:小児市中肺炎の重症度分類

年齢別呼吸数(回/分):新生児<60、乳児<50、幼児<40、学童<20


中等症、重症においては1項目でも該当すれば、中等症・重症と判断する。


日本小児呼吸器学会,日本小児感染症学会,編.小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022.東京:協和企画;2022.


多項目遺伝子関連検査実施指針作成合同ワーキンググループ委員

一般社団法人日本小児感染症学会
幾瀨樹、相葉裕幸、福田裕也

一般社団法人日本外来小児科学会
中村豊、西藤成雄、牟田広実

公益社団法人日本小児科医会
峯眞人、時田章史、宮原篤

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