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イベント・研修会情報
2019/10/01

第9回 日本小児科医会 乳幼児学校保健研修会を終えて。

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2019年9月15日(日)、三井住友銀行東館 ライジング・スクエア SMBCホールにおいて、第9回乳幼児学校保健研修会を開催しました。近年、学校での健康教育において、がん教育、喫煙防止教育、性教育などそれぞれの課題について専門的な内容が求められるようになり、外部講師として医師の派遣を要望される機会が増えています。しかしながら、教育については専門家でないため敷居が高いと感じていらっしゃる先生も少なくないのではないかと思います。今回は「小児科医として知っておきたい学童・思春期の健康教育」をテーマとし6名の先生方ご講演いただきました。

神川会長は開会のご挨拶のなかで、自見はなこ先生が厚生労働大臣政務官に就任されたことをご紹介されました。引き続き午前中に2つの講演(座長は岩田祥吾先生)、ランチョンセミナーを挟んで午後に3つの講演(座長は伊藤晴通先生)がありました。
 

日本小児科医会 神川 晃 会長
 

1.やってみたくなる健康教育
岡山大学大学院 教育研究科 伊藤 武彦 先生
岡山大学教育学部で養護教諭の養成に携わる立場から、学校よりの立場から学校での健康教育についてお話しいただきました。静岡県小山町での就学前の地域の子どもたちを対象とした地域で取り組む食育についての紹介、さらに米国での学生とのディスカッションを通して幼児期・低年齢期における経験は教育内容そのものより判断力の育成による健康への影響が大きいと述べられました。米国でASCDとCDCが協働してWSCC(Whole School, Whole Community, Whole Child)を策定した経緯およびその意義を解説され、予防医学としての健康教育は将来的に大きなreturnがあり、教育部門と連携・協働して手作りの健康教育はいかがでしょうと締め括られました。
1.やってみたくなる健康教育/伊藤 武彦 先生
 

2.小児がんについての基礎知識
宮崎大学医学部 発達泌尿生殖医学講座 小児科学分野 盛武 浩 先生
小児がんについて、総論、トータルケア、小児白血病、小児期に啓蒙や対策の必要ながん、今後の展望の項目についてわかりやすくご講演いただきました。近年小児がんの治療成績は改善しているものの、依然として1歳から19歳では死亡原因の1-3位に入っており引き続き重要な疾患であること、治癒が増えることによって今、全国に小児がん経験者は約10万人になっており治った後に普通の生活に戻れるかが問われる時代になっていることに触れられ、小児がん専門の立場から喫煙対策、精巣腫瘍、胃がんとピロリ菌対策、子宮頸がんとHPVワクチンを、啓発・対策が必要な事項として挙げられました。
2.小児がんについての基礎知識/盛武 浩 先生
 

3.ランチョンセミナー:養護教諭が主導し学校医が支援する健康教育実践例
静岡県小山町立小山中学養護教諭 臼井悦子先生
情報の氾濫、SNSトラブルなど社会環境・生活環境の変化、食物アレルギー、生活習慣病、ネット依存、心の健康など様々な課題がある中、養護教諭は子どもたちが主体的に健康管理を行えるようになるためにはどのように保健教育を行っていくのが良いか悩んでおり、学校医が積極的にかかわっている小山中学では効果的な取り組みができていることの紹介がありました。
3.ランチョンセミナー:養護教諭が主導し学校医が支援する健康教育実践例/臼井悦子先生
 

4.喫煙防止教育
東京都医師会 会長 尾崎 治夫 先生
東京都医師会ではがん教育、性教育などの健康教育に力をいれており、健康教育を推進するために学校医の先生に外部講師を務めていただけるよう授業で使用する共通教材の作成や模擬授業を行う研修会の実施などに取り組んでいます。今回、東京都医師会学校委員会が作成した健康教育スライド「喫煙」中学生版(案)を解説していただきました。タバコの歴史、タバコの害、タバコの人体への影響(容姿、喫煙により発症リスクが上がる疾患)、タバコ依存、受動喫煙(副流煙による周囲の人への影響、胎児への影響)、新型タバコについて等、それぞれの事項について図や表、インパクトの強い写真を織り交ぜた非常にわかりやすくメッセージ性の高い資料でした。健康教育にとどまらず、都行政と連携し社会として禁煙を進める取り組みについても紹介がありました。
4.喫煙防止教育/尾崎 治夫 先生
 

5.性教育(小学生対象)について
かわむらこどもクリニック 川村 和久 先生
小学校の管理校医就任をきっかけとして2007年に命の大切さを伝える性教育の取り組みとして小学校4年生に体育科の授業として「育ちゆく体とわたし」を、翌年から親子で学ぼう「命のつながり」をPTA親子行事、その後外部講師の授業として引き続いて行って来られました。授業を行うにあたって背景となる理念、必要な配慮について詳しく解説があり、小学生対象の授業でのつかみにも触れていただきました。養護教諭との連携、校長の理解、教育委員会との協働の成果であり、その取り組みは昨年の全国学校保健・安全研究大会で初めての教員以外の発表として取り上げられ、文科省に対して1つの方向性を示すことになったと思われます。今この授業を仙台市全ての小学校に広めるための準備が進んでいるということでした。

5.性教育(小学生対象)について/川村 和久 先生
 

6.健康な性を育むための中高生の性教育
女性クリニックWe! TOYAMA 種部 恭子 先生
親からの自立の第一歩である思春期の心の発達には性的発達が欠かせないとする立場から、健康な恋愛ができる環境を保証し、子どもたちが自らの性的発達に戸惑いながら恋愛することで、「人の気持ちは思い通りにならない」ことを学び、どのようにネゴシエーションして生きるかを体験により学ぶことが大切と述べられました。SNSを介した出会い、より幼い児が犯罪のターゲットとなっていること、10代の出産、リスクの高い性行動を選ぶ子どもたちの背景など社会的な課題、草食化、恋愛カーストなど子どもたち自身の課題を挙げ、学びの年齢である子どもたちのトラブルにはペナルティでなく支援により学び直し自立するチャンスを与えるべきであると述べられました。また、「いのち」「仲間」「家族」など美化した言葉、脅しはむしろ子どもたちを傷つける可能性があることに触れ、ユネスコの性教育ガイドラインに比べ日本の性教育がまだ遅れていることを示されました。最後に先生ご自身が中高生に行う授業で使用する資料を提示し、そのポイントを詳細に解説していただきました。

6.健康な性を育むための中高生の性教育/種部 恭子 先生
 
 
講演に引き続き、5名の演者にご登壇いただき総合討論が行われました。小児科医・学校医が率先して「できることをやっていく」ためには、学校(特に養護教諭)・教育委員会・関連機関との連携が必要不可欠であること、一方で健康教育の眼目である正しい情報を相手(Target population)に届かせるのは極めて難しい課題であることが示されました。がん教育、喫煙防止教育、性教育は、いずれも、それぞれ名前・言葉の通りの課題についての教育ではありますが、それぞれを通して、もっと大きな「生きる」や、「命の大切さ」を伝えることができる、そういう取り組みであることに気づかされました。


会場の風景


最後に座長を務めた岩田先生からのメッセージです。
「皆様、普段から学校現場へ行きましょう。」
 
講師の先生方には限られた時間の中に、わかりやすくご講演をいただきありがとうございました。それぞれの先生が、真摯に、未来の世代に情報を届けようと活動していらっしゃる姿を見せて戴き感銘を受けました。
今回は210名の多くの先生方にご参加いただきました。
皆さまには最後まで熱心にご聴講・ご討議いただき盛会のうちに研修会を終了することができました。
心よりお礼申し上げます。



次回、第10回 乳幼児学校保健研修会は2020年9月27日(日)に同じ会場にて開催いたします。
詳細が決まりましたらご案内申し上げます。