第15回乳幼児学校保健研修会報告
2024年9月15日に、ビジョンセンター浜松町で第15回日本小児科医会乳幼児学校保健研修会がWEBとのハイブリッドで開催されました。今回のテーマは「乳児期早期の赤ちゃんを診る」〜伴走型相談支援を目指した健診〜でした。現地に21名、WEBで131名が研修会に参加されました。午前中に2演題、午後から3演題の講演があり、その後に総合討論を行いました。
乳幼児学校保健委員会業務執行理事
板野正敬
挨拶
伊藤隆一先生(公益社団法人日本小児科医会会長)
研修会は伊藤隆一 日本小児科医会会長の挨拶で始まりました。
母子保健行政の最近の動向について〜
木庭 愛先生(こども家庭庁 成育局 母子保健課 課長)※WEB講演
1題目はこども家庭庁母子保健課の木庭愛課長から、「母子保健行政の最近の動向について」のタイトルでWEBでご講演いただきました。内容は1.母子保健行政をとりまく最近の動向、2.産後ケア事業について、3.新生児マススクリーニング検査、新生児聴覚検査について、4.乳幼児健診について、5.母子保健のデジタル化について、6.プレコンセプションケアについてでした。母子保健行政をとりまく最近の動向では、こども基本法の概要、こども大綱について、こども未来戦略についてお話しされました。産後ケア事業については、ほとんどの市町村で、適切な授乳が実施できるためのケア、育児手技についての指導や相談を実施していました。しかし、61%の市町村が委託先の確保を課題として挙げていました。産後ケア事業の提供体制の整備が急務です。また、産後のメンタルヘルス対応も重要です。新生児マススクリーニング検査もSCID、SMAの実証事業が開始され、新生児聴覚検査についても財政援助が拡大しました。乳幼児健診については、主に1か月児健診と5歳児健診の現状について話されました。両健診とも国庫補助金利用率はまだまだ低く、自治体からもさまざまな意見が寄せられているようです。1か月児健診では健診医の参加にハードルがあるという意見、5歳児健診では個別健診の要望、実施自治体の取組の横展開の要望、抽出健診の要望がでていますが、国としてもQ&A等で回答しています。母子保健のデジタル化については、PMH(Public Medical Hub)の全国展開と、電子版母子健康手帳の普及を目指しています。最後にプレコンセプションケアについての国の取組を話されました。木庭課長には質問にもお答えいただき、ありがとうございました。
子育て支援のための問診票(乳児期前半用)を活用した、小児科医療機関における伴走型の子育て相談支援
三平 元先生(日本小児科医会 乳幼児学校保健委員会/ひがしまつど小児科)
2題目は日本小児科医会乳幼児学校保健委員会の三平元先生から、「子育て支援のための問診票(乳児期前半用)を活用した、小児科医療機関における伴走型の子育て相談支援」のタイトルでご講演いただきました。小児科医療機関には子育て相談への適切な対応が求められています。相談に来るのを待つのではなく問題やニーズを把握しにいき、複合的に課題がありうることや家族全体を支援する必要がありうることに留意し、支援関係者に繋げた後も自らの役割を確認し伴走をつづけるようにしたいものです。その時に、子育て支援のための問診票(乳児期前半用)が役に立ちます。この問診票は令和4年3月に日本小児科医会が作成したもので、9つの設問からなっています。質問1は、「子育てについて気軽に相談できる人はいますか。」で、これに「いいえ」または「何とも言えない」と回答した保護者には、相談相手が「いない」または「はっきりしない」なか子育てをしてきた辛さに共感し、苦労をねぎらい、悩みや不安を傾聴し、いつでも繰り返し相談に乗ることを伝えましょう。必要に応じて支援の仕組みや地域の社会資源について情報提供するのも良いでしょう。このような質問が9つあります。皆さんもぜひご自身の小児科医療機関で使用してみてください。母親や父親のみならず、みんなで子育てする「ともそだて社会」の一層の充実を目指しましょう。
小児科医が行う生後2週間健診
守分 正先生(山口県小児科医会/岩国医療センター 小児科)
3題目は岩国医療センター小児科の守分正先生から、「小児科医が行う生後2週間健診」のタイトルでご講演いただきました。山口県岩国市では、2016年9月から岩国医療センターで、岩国市の公費負担による2週間健診が行われており、市内では75%の受診率です。開始当初の2週間健診の意義として、新生児側からの視点では、虐待の早期発見、育児環境のチェック、疾患の早期発見、救急受診の指導などが重視されていました。その後の周産期医療を含めた体制の変化があり、2週間健診の意味づけも変化しているとのことでした。出生前診断の進歩、新生児マススクリーニングの変化、発達性股関節脱臼の手引き、頭蓋変形への対応、乳児血管腫の治療の進歩、早期診断治療が必要な疾患の治療法開発など、劇的に変動しています。その変化に対応しながら2週間健診を実施しています。先生には具体的な診察手順、からだの各部位で注意すべき異常、疾患についてご提示いただきました。特に虐待の鑑別は必要と強調されました。
1か月児健診
金子 淳子先生(山口県小児科医会/金子小児科)
4題目は山口県小児科医会の金子淳子先生から、「1か月児健診」のタイトルでご講演いただきました。山口県では全県で1か月児健診が公費で実施され、広域化されています。病院または診療所で小児科医が実施しています。山口県小児科医会では、健診の質向上のためガイドブックを制作したり、産後うつ病スクリーニングの導入推進、各種研修会を実施しています。1か月児健診では、生後1か月までの評価と、親子の未来に向けての支援をします。1か月児健診の意義は、早期介入による子どもの養育環境の整備にあります。健康を決定する社会的要因の評価を行い、安心して子育てができるための環境整備をし、切れ目ない伴走支援の起点として重要です。その後、母子健康手帳・健康診査票のチェック項目や、診察の手順とチェックされうる疾患について説明されました。大切なポイントとして、重篤な疾患の見逃しをしないこと、体重増加不良への対応、保護者の不安や疑問への対応、黄疸への対応、向きぐせへの介入を挙げられました。また、母乳育児支援や産後うつ病スクリーニングの重要性にも触れられました。さらに、養育者へのアドバイスの実際を具体的にお話しになり、とても参考になりました。おわりに、1か月児健診についての私見として、「小児科医との出会いは、早ければ早いほど良い」と述べられました。
2か月児健診:乳児期早期の空白期間へのアプローチ
福井 聖子先生(大阪小児科医会 副会長)
5題目は大阪小児科医会の福井聖子先生から、「2か月児健診:乳児期早期の空白期間へのアプローチ」のタイトルでご講演いただきました。乳児期早期は視覚、聴覚、触覚などの感覚の感受性期で、この感覚が発達の土台となります。脳の発達でみると、2〜3か月では帯状回と神経繊維結合が起き、愛着行動が促されます。また、出生後の保育環境がADHDを増加させるというデータもお示しされました。昭和30年代ぐらいまでは、乳児への関わりは自然に当たり前に日常的に行われていたのではないでしょうか。現在は正期産で退院し、核家族で未経験の育児で、どのように関わったらよいかわからない親が多い。新生児期から乳児期早期の支援者として、保育士、助産師、保健師、心理士、作業療法士、産婦人科医、小児科医が挙げられるが、どの職種も現状では十分とは言えない状況です。初回予防接種に来院した2か月児の保護者にアンケート調査をした結果、母乳やミルク、頭の形、うんち、おへそなどについて、いろいろと聞きたい人も多いことがわかりました。2か月児健診は、刺激―反応系から計画された能動的行動への変化が始まる時期にあたり、発達や栄養状態のチェックなどを行い、母親へのサポートをするのが目的です。大阪小児科医会では2か月児健診を推進していくために、2か月児健診ガイドブックを作成しました。そのうち、大阪以外の先生方も入手できる予定とのことでした。
総合討論
質疑応答が活発に行われた総合討論
以上5演題の講演が終了したのち、総合討論を行いました。総合討論では活発に質疑応答が行われましたが、本日の研修会でたびたびでてきた「伴走型支援」については、医師が医療機関で親子に寄り添っていくだけでなく、本当の伴走型支援を行うのは地域資源なので、医師がそこに近寄って行かなければならないというコメントを演者からいただきました。その他、切れ目ない支援のためには、就学後も親に対する支援を継続していくことが必要で、乳児期から子どもたちと伴走している小児科医だからこそ、この役割を果たしていくことができるという話もありました。
総評
松下享先生(公益社団法人日本小児科医会副会長)
最後に、松下享 日本小児科医会副会長の総評とまとめで研修会を終了しました。とても充実した内容でした。1か月児健診が国庫補助の対象となったのを受けて、この研修会が全国で1か月児健診を含めた乳児期早期の健診が広まるきっかけになると幸いです。ご講演いただいた講師の先生方、参加された皆様、ありがとうございました。
第16回乳幼児学校保健研修会は
2025年9月14日(日)に開催予定(会場は未定)です。