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イベント・研修会情報
2019/12/03

第6回 地域総合小児医療認定医のための指導者研修会 報告

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 令和元年11月24日(日)、JA共済ビル カンファレンスホールにて、第6回 指導者研修会が開催されました。冒頭、神川 晃会長から、成育基本法の成立と協議会の開設の報告と地域総合小児医療認定医への期待を込めて開会の挨拶をいただきました。その後、午前の講演が始まりました。

●日本小児科医会 神川会長のご挨拶

 講演1は東京医科歯科大学大学院 歯学総合研究科 竹村 洋典先生の「なぜ研修にワークショップなのか ―実りある研修のために―」です。昨今の医学教育に大きな効果をもたらしているアクティブラーニングの中でも、ワークショップについてその特徴と有用性を説明され、具体的な運用に必要な、場づくり、プログラム、そしてファシリテーションを説明していただきました。参加、体験、相互作用によって学習の目的である行動変容に到達するダイナミックな知的作業から得られる効果に驚きました。単に学習方法という意味付けばかりでなく、地域や組織の中で多職種の会議や委員会などでも十分効果を上げる手法と思いました。
●講演1/竹村 洋典先生(東京医科歯科大学大学院 歯学総合研究科)

 講演2は、国立成育医療研究センター理事長の五十嵐 隆先生に「健やか親子21と成育基本法」という演題でご講演をいただきました。初めに、急激な少子化の進行、世界最高レベルの乳児死亡率、新生児死亡率の低値、世界第1位のThe Child Index(健康、教育、栄養状態のいずれも最高と評価されている)、遺伝子治療をはじめとした革新的医療が導入され多くの難病患者が救済されている。しかしそのために慢性疾患(障害)をもって思春期・成人期に移行する子どもが増加し、日本でも12%の子どもがChildren and youth with special health care needsを持っていて、在宅医療支援を必要とする児も増加している。また16%が心の健康問題を持っているとされ、10歳から14歳の死因の1番が自殺となっている。これからは、子どもや青年のこころの問題に適切に対応し、Social determinants of child healthを正しく評価し、そのうえで適切な助言・指導のできる小児科医の存在、さらには病気の有無にかかわらず身体、心理、社会性の面から子どもと家族を支援し、子どものリスクに対応できる体制づくりと小児科医が必要であると結ばれました。
 次に「健やか親子21」(第二次)のお話になり、21世紀の母子保健の主要な取り組みを提示するビジョンとして、関係者、関係機関、団体が一体となってその達成に向けて取り組む国民運動計画であり、「健康日本21」の一翼を担っていると説明されました。2015年から第二次計画が10年の計画で始まりました。3つの基盤課題 A「切れ目のない妊産婦・乳幼児への保健対策」、B「学童期・思春期から成人期に向けた保健対策」、C「子どもの健やかな成長を見守りはぐくむ地域づくり」を挙げて、特に「育てにくさを感じる親に寄り添う支援」と「妊娠期からの自動虐待防止対策」を重点課題としています。今年、中間評価結果が出ました。おおむね課題の多くは目標値に届いていたようですが、発達障害、児童虐待の関係で悪化した項目がありました。
 最後に成育基本法の話になりました。昨年(2018年)の11月に超党派議員連盟として法案が提出され、12月8日未明に可決成立されました。正式名称は「成育過程にある者及びその保護者ならびに妊産婦に対し、必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」であり、様々な施策があげられ、閣議決定後施行されていく予定です。効果的に運用することが小児・青年の医療・保健に携わる者の大きな責務であると結ばれました。

●講演2/五十嵐 隆先生(国立成育医療研究センター 理事長) 

昼食をはさんで、午後の講演3は「小児医療は子どもをもっと健康にできる~ヘルス・スーパービジョンの概念から学ぶ~」という演題で、国立成育医療研究センター 総合診療部総合診療科の阪下和美先生のお話を拝聴しました。子どもの疾病構造の変化に伴い健康課題は大きく変化している。「健康の社会的決定因子」を評価し、そのうちネガティブに働くリスク因子に対し、予防的介入によりリスクを小さくしていく可能性がある。アメリカの小児保健は、このような予防的介入を中心とした健康促進と予防戦略としてBright Futuresを提唱している。子どもをBiopsychosocialに診てanticipatory guidance(予期的ガイダンス)を実行する体制が、究極的に医療費を減少させると考えている。この体制を日本にすぐに導入することは難しいかもしれないが、日常の小児科診療に関して、「かかりつけ医を持つという文化を育てる」「健康の社会的因子を評価する」「プラスひと言・ひと観察・ひと評価を」という提案をされ結ばれました。

●講演3/阪下 和美先生(国立成育医療研究センター 総合診療部 総合診療科)

 その後、ここで説明されたanticipatory guidanceについて、プレネータル、1か月、4か月、10か月、1歳6か月、3歳、5歳、10歳、13歳、15歳に分かれて、10のグループに分かれ討論し提案していただきました。竹村先生のご講演にあったワークショップからは、準備不足が否めないものとなりましたが、参加者の感想では楽しく、積極的に参加できたというものがありました。最後に阪下先生より、健康にとってネガティブな社会的決定因子に対して、小児科医が評価、指摘しより良い方向に介入できることの重要性を確認していただき研修会を終了しました。

●ワークショップの様子① 


●ワークショップの様子②


●ワークショップの様子③


●ワークショップの様子④

 
地域総合小児医療認定医を取得していただいた先生方には、是非、今回の指導者研修会で学ばれたように、日本の子どもたちの現状で見えてきた健康に関する問題や課題に対して、健康の社会的決定因子を評価し、助言・指導のできる小児科医として活躍していただければ幸いです。そして、ワークショップの方策をもって、地域においてリーダーとして小児医療をけん引し、行動変容というアウトカムを多く引き出していただきたいと願っております。


【報 告】
日本小児科会 業務担当理事
地域総合小児医療検討委員会担当
佐藤 好範