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イベント・研修会情報
2020/10/13

第10回 日本小児科医会 乳幼児学校保健研修会を終えて。

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2020年9月27日(日)、三井住友銀行東館 ライジング・スクエア SMBCホールにおいて、第10回乳幼児学校保健研修会が開催されました。乳幼児学校保健委員会は、2年前から神川晃会長からの諮問「Bright Futures日本版の作成と会員への普及」に取り組んでいます。今回は「学童・思春期を極める –子どもたちの心身の健康をかかりつけ医が見守る-」をテーマとし就学以降の子どもたちへのアプローチを5つの視点から取り上げ、ご講演いただきました。


●日本小児科医会 神川会長

神川晃会長は開会の挨拶で、今後の小児科外来診療の方向性について、乳幼児健診の充実、就学以降の個別健診体制の確立、地域総合小児医療認定を通してアイデンティティを高めていくことの重要性・必要性についてお話されました。引き続き午前に2つ、午後に3つの講演をいただきました。要約については、午前・午後でそれぞれの座長の松下享先生、川上一恵先生にお願いしました。

1. 学童・思春期の外来診療 ―老成円熟への歩み―
杏林大学医学部医学教育学講座 関口進一郎 先生
冒頭、専門外来を受診する染色体異常のお子さんや慢性頭痛のお子さんに、長期的にかかわる中での経験から、学童や思春期の患者さんの診療には子どもの全体を診るという総合診療の立場で携わることが重要とのお話をされました。特に思春期診療の特徴として、疾患だけでなく患者さんの生活環境を把握し、保護者の思いだけでなく、本人の考えや思いにも対応することが必要であり、小児科医一人が全てを診療することには限界があるので多職種間の連携が重要、健康管理を子どもに移行させ子ども自身が主体的に参加し自立に繋がる診療を目指すことを挙げられました。最後に米国の健診システム(Bright Futures)とその内容(Health Supervision, Anticipatory Guidance)にも触れられ、今後、思春期の子どもたちを診るにあたって示唆に富むご講演でした。


●杏林大学医学部医学教育学講座 関口進一郎 先生

2. 学童・思春期の心の課題
あなはクリニック 滝川一廣 先生
まず思春期の課題として、労働ができる力を身につけることと独立した自分をつかむことの2つを挙げられ、生物学的には「おとな」でありながら社会的には「子ども」として扱われることの矛盾を抱えながらこの課題に向かうことの困難さを説かれました。そして家庭内暴力や不登校など様々な状況についても触れ、これら諸問題のケアには社会的・共同的な体験ができる場が必要であり、そのような場を如何に見つけどうつないでいくかが重要であると話されました。思春期に問題を抱える子ども達は決して孤立を望んでいるわけではないというお話からは、心の問題への解決の糸口を感じることができ感銘を受けました。


●あなはクリニック 滝川一廣 先生(スライド)

3. 学童・思春期の睡眠と健康
東京ベイ・浦安市川医療センター長 神山 潤先生
日本の学童及び思春期の子どもの睡眠時間はsleep foundationの推奨より短いこと、眠らないことがもたらす弊害の生理的な機序を解説されました。睡眠不足になると前頭前野の活動性が下がり冷静な判断ができなくなり、食欲が理性に勝ることとなり太ってしまう。睡眠不足の一因としてスマートフォンがあり、スクリーン時間が増えると就床時刻が遅く睡眠不足になる→昼間の眠気が強くなる→課外活動時間(=運動)が少なくなる→太る(BMIが高くなる)の悪循環となります。妊娠中のメラトニン濃度が正常であることで胎児の酸化ストレスが減り神経系が保護されるというデータも出ています。最後に「医療職なら 寝るのも仕事!」というメッセージを提示されました。


●東京ベイ・浦安市川医療センター長 神山 潤先生

4. 知っておきたい学童・思春期の頭痛の知識
東京クリニック小児・思春期頭痛外来 藤田 光江先生
小児科外来では頭痛はごく一般的な訴えです。まず頭痛を訴える子どもの診方を示されました。診察室入室時の歩行、椅子に座っている様子、表情などの観察も診断に役立ちます。画像診断では頭部MRIとMRAを施行します。偏頭痛か偏頭痛以外の頭痛かを判断し、偏頭痛の対処法を知ることが大切です。学校欠席に繋がる慢性連日性頭痛は自我の目覚めがはっきりせず、大人に批判的でない子どもが少なくありません。頭痛ダイアリーを患者自身が記録することが勧められます。思春期の頭痛診療においては、自己評価を高めるよう促しながら成長を待つことが重要と締めくくられました。


●東京クリニック小児・思春期頭痛外来 藤田 光江先生(ライブ配信の様子)

5. 学童・思春期のスポーツ活動と健康
早稲田大学スポーツ科学部 鳥居 俊先生
日本の小中学生の体力・運動能力・運動習慣の調査結果(文部科学省)によると、女子は年長になるにつれ体育好きが少なくなる傾向にあり、1週間の体育以外の運動時間が0分という中学生が20%にも達しています。体育・運動好きな小中学生はQOLが高く、朝食摂取や睡眠時間など生活習慣も良好で、体脂肪率や超音波骨評価値も良い結果となっています。一方で、過剰な運動(1週間の練習日数や練習時間が多い)は高率にスポーツ障害を引き起こすことになります。部活動のあり方を考えさせられる講演でした。


早稲田大学スポーツ科学部 鳥居 俊先生

武知哲久副会長に総括、および閉会のご挨拶をいただき研修会を終了しました。就学以降、特に思春期の子どもたちの診療をどちらかと言えば不得手とする小児科医が少なくない中、乳幼児学校保健委員会として会員の先生に、就学以降の子どもたちの個別の健診・保健指導の指針を示すべく作業を進めています。次回の研修会(2021年度)では、その詳細をご報告する予定です。


●会場の風景


●ライブ配信の様子

本研修会は日本小児科医会として初めてWeb(Zoom Webinar)配信と会場開催のハイブリッドで開催しました。会場30名、LIVE配信280名にご参加いただき、盛会にて終了することができました。ご参加いただきました先生には厚くお礼申し上げます。操作の不手際から画像や音声の乱れがあり申し訳ございませんでした。また、一部の先生にはLive配信が受信できないなど大変ご迷惑をおかけしました。深くお詫び申し上げます。

レポート:日本小児科医会 乳幼児学校保健委員会 稲光 毅