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イベント・研修会情報
2021/10/01

第11回乳幼児学校保健研修会を終えて

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日本小児科医会乳幼児学校保健委員会 業務執行理事 稲光 毅

乳幼児学校保健委員会で3年の歳月をかけて作成した就学以降の個別健診のための資材、「問診から進める個別健診ガイドブック –小学生から思春期までのバイオサイコソーシャルアプローチ–」について、会員が活用するための解説を目的とし、2021年9月19日に第11回乳幼児学校保健研修会をweb配信で開催しました。

画像;神川晃(会長)スライド 画像;稲光毅(業務執行理事)スライド 画像;松下享(理事)スライド

第1部:総論「バイオサイコソーシャルの視点から見た子どもの健康課題」では、まず神川会長が「成育基本法とこれからの小児科」の演題で講演されました。成育基本法を根拠として出生前から成人に至るまでの健診体制の充実を進めること、小児科医が子どもに継続して身体的、心理的、社会的観点から実施する個別健診(小児科ネウボラ)を縦軸にその成長の過程で必要とされる地域総合小児医療、community pediatricsの提供を小児科医の将来像と考えていることを話され、今回作成されたガイドブックが個別健診の実現を推し進める重要な1歩となることに期待を示されました。

次に「就学以降の子どもの健康課題 個別健診の必要性」について稲光が講演、大人の生活様式の変化に伴い子どもを見守る社会環境が変わってきたこと、Bright Futuresには米国でも同様の課題が指摘されており子どもを支援するために家族を支えるfamily centered careが強調されていること、学校保健は子どもを学校内で集団生活をおくる一人として捉える制度であり、家族とともに見守る母子保健とは異なること、従って就学以降も子どもを家族の一員として見守る個別健診が必要であることを示しました。

第2部:各論「問診から進める個別健診ガイドブックの活用について」では、担当理事および委員からガイドブックの解説を行ないました。以下、各担当が作成したサマリーを掲載します。

作成の経緯、使用方法について 松下 享
 2018年に神川晃会長より「Bright Futuresの日本語版作成と会員への普及」という諮問を受け、当委員会では対象を小学校低学年、小学校高学年、中学生、高校生の4つのグループに分けた個別健診ガイドブックを作成した。上記対象年齢の児童・生徒が受診した際に、本人および保護者に質問票を配布し、回答いただいた内容に問題がある場合には解説文を参考に面談することを想定して作成されている。以下に各年齢グループの特徴を示す。
画像;松下享(業務執行理事)スライド 画像;伊藤晴通(乳幼児学校保健委員)スライド

小学校低学年 伊藤晴通
この時期こどもは自立能力を急速に発達させ、学校生活に適応していく。家庭生活では『早寝早起き朝ご飯』を大切にしたい。また、家庭での団らんは子どもの精神的安定に重要である。メディア対策には低学年からのルール作りが必要である。この時期の子どもの心の問題は、家族関係に根ざすことが多い。質問票で家庭の状況も窺う事が出来る。また、いじめが低年齢化しているのでこの時期にもいじめには充分に配慮すべきである。
画像;川上一恵(乳幼児学校保健委員)スライド 画像;増田映子(乳幼児学校保健委員)スライド 画像:糸数智美(乳幼児学校保健委員)スライド


小学校高学年 川上一恵
この時期の子どもは基本的生活が自立し、体力もつき、交友関係及び行動範囲が広がる。一方、保護者は子どもを過信し目を離しがちである。子どもを一人の独立した人間として認め、責任と自立の感覚を持てるように支えることが望まれる。また、痩せ願望、性別違和など自尊感情と結びつく項目については児童精神科医など専門家につなぐことも必要である。さらに、問診票の一つの質問に関連するいくつかの質問項目を整理し、そこからの指導のポイントを解説した。

中学生 増田英子
中学生は、思春期に入った自分の身体と心の変化に戸惑い様々な葛藤を抱えるようになる。保護者は幼少期から家庭での会話を大切にし、いつでも手助けできることを伝えておくことが必要である。非行や不良行為、10代で増える精神疾患、子どもの自殺、スポーツと音響に係わる身体の安全の他、自分の性も相手の性も大切にすることや性別違和について解説した。思春期生徒のデリケートな部位を診察する際の配慮についても述べた。

高校生 糸数智美
発達課題としても「自我同一性」が確立される時期であり、社会的するにも多方面急速に発達する時期である。生物学的には「大人」、社会的には「子ども」という特殊な時期を生きる子どものリスク因子を挙げ、特にメディア依存対策や自殺予防のゲートキーパーとしての小児科医の役割に触れ、具体的な対応について参考となる情報を提供する視点で解説を加えた。希薄になりがちな親子の絆を確認し、大人への移行期の重要性に触れた。

講演内容あるいはガイドブックについてQ&Aおよびチャットを通して多くのご意見・ご提案をいただき可能な範囲で配信中にお答えしました。今後、ガイドブックの改訂、改善に反映させ、また公的な枠組みでの健診につながるよう検討を進めていきたいと考えています。質問票についてはファイルを会員ホームページからダウンロードいただけます。
会員専用ページ(PC用) ・会員専用ページ(スマートフォン)
また質問票のみの販売ができるよう準備を進めています。ガイドブックは、現時点では研修会をお聴きいただいた方にお渡しする形をとっています。今回の研修会は379名の方から参加申し込みをいただきました。ライブでご覧いただいた方は11月1日から2022年1月31日までオンデマンド配信でご視聴いただけます。また、新規のオンデマンド視聴の申し込みを10月1日から受け付けていますのでご利用ください。