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イベント・研修会情報
2023/09/27

第13回乳幼児学校保健研修会を終えて

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2023年9月17日(日)にビジョンセンター浜松町にて、第13回乳幼児学校保健研修会がハイブリッドで開催されました。今回のテーマは「保育所・幼稚園における諸課題について 〜園医の活動を再考する〜」としました。参加者は現地29名、WEB129名でした。午前中は伊藤隆一会長の挨拶に始まり、講演が2題、午後からはシンポジウム「園での健診についての工夫」として、3名の先生に講演いただきました。最後に松下享副会長の総評をいただき終了しました。明日からの園医活動に役立つ大変有益な研修会でした。以下、研修会内容について報告します。

乳幼児学校保健委員会業務執行理事
板野正敬


挨拶

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伊藤隆一先生(公益社団法人日本小児科医会会長)

今日のテーマは保育所・幼稚園における諸課題についてということで、おそらくここにいる先生は全員園医を務めていると思いますが、他の先生がどのようになさっているか、今日はシンポジウム等ありますので、お聞きいただきたいと思います。医会では6月の政府の骨太の方針に乳幼児健診の拡充ということを記載していただきました。約40億円の予算が健診を1つ増やすことによって、必要になってきます。ですから、アメリカみたいな思春期まで10数回の健診を一度に望むことは不可能です。まずは少なくとも2〜3回ということで、1〜2ヶ月、そして5歳前の就学時健診前に健診をやるという考えで議論が始まっています。では、今日は短い時間ですがよろしくお願いいたします。

園医は楽しんで園に行こう!〜園医のしごとと期待されていること〜

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田草雄一先生(乳幼児学校保健委員会委員/ぽよぽよクリニック)

田草先生には、(1)保育現場の今(2)園医を取り巻く環境(3)園医のしごと(総論)(4)園医のしごと(各論)(5)園医の地域貢献(6)園として園医に期待することの6項目についてご講演いただきました。保育現場の今では、保育園の1日の流れ、崖っぷち保育といわれるように、不適切な保育、保育の危険、保育所職員の配置基準などについて話され、少ない保育士で多くの子どもを保育している現状を示されました。園医を取り巻く環境では、嘱託医は小児科が47.1%、年間出務回数2回が66.1%、業務で最も多いのが入所後の定期健康診断であることを話されました。園医のしごとに関しては、感染症対応、アレルギー対応、発達の気になる子どもへの対応など、さまざまな事があるが、園から相談しやすい関係構築の重要性を指摘されました。しごとの各論では、定期健康診断、園医による健康教育、健康相談などを実施し、先生が楽しんで園に出向き、幅広い活動を行なっていることを具体的に教えていただきました。また、地域貢献では、松江市の5歳児健診の現状についてご提示いただきました。今後5歳児健診が全国展開したときの参考になると思われました。最後に保育園から園医に期待することとして、田草先生が園医をされている保育園理事長からのビデオメッセージが流れましたが、その中で田草先生は友達というイメージで医者のイメージが変わったこと、先生が来るのを子どもたちは楽しみにしていて、絵本の読みきかせ、手遊び、歌などを披露してくれること、保護者の質問にも丁寧に答えてくれること、なんでも相談できる関係であることを話され、田草先生の素晴らしい園医活動を再認識しました。われわれも田草先生の取り組みを参考に、1つでも自身の園医活動に取り入れ、何よりも楽しんで園に行って、相談しやすい関係性を築いていこうと思いました。

異次元の少子化対策で変わる?保育・教育施設での子どもの事故(傷害)予防

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出口貴美子先生(キッズ&ファミリークリニック出口小児科医院)

出口先生にはWEBでご講演いただきました。この15年、時代の流れと共に、事故(傷害)予防の何が変わってきたか?については、子どもの事故の概念が変わったと話されました。事故(accident)ではなく傷害(injury)と呼び、後遺症や死亡を招く事故は予防できること、そのためには科学的予防が有効なことを示されました。科学的な傷害予防は、事故データを収集し、変えられるものを探し、他職種連携をして対策法をみつけ、変えられるものを着実に変えることで事故を予防することです。事故予防のために変えるものを3Eアプローチとして、Enforcement(法律・安全基準作成)、Environment(環境を変える)、Education(子どもや子どもに関わる人への教育)が大切であると話されました。保育・教育施設管理下での痛ましい事故が繰り返されていますが、保育園での死亡事故予防として、睡眠、食事、水遊びでの注意点や対策をご教示いただきました。さらに、先生は「NPO法人Love&Safetyおおむら」を組織し、地域を巻き込んで子どもの事故予防に取り組んでおられます。また、大村市子ども安全管理士を養成し、子どもの傷害予防のスペシャリストを増やしています。先生のご講演を拝聴し、園医も保育園と連携して、もっと事故予防に取り組まなければならないと思いました。

シンポジウム 「園での健診についての工夫」

私の園医活動~保育所、こども園でのBiopsychosocialapproachを目指して〜

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伊藤晴通先生(乳幼児学校保健委員会委員長/生和堂医院)

伊藤先生は年2回の健診では、聴診器をあてる程度の流れ作業になり、biopsychosocialなアプローチができないので、月1回クラス別の健診を行い一人の診察にかける時間を増やしています。また、入園時健診ではSVSを用いた眼科スクリーニングを実施し、4ヶ月未満児には股関節エコーを実施しているとのことでした。股関節エコーは今までに2000例以上実施されたそうです。小児科医が備えるべき能力として、成育医療、小児保健、境界領域、思春期学、神経発達症を挙げられました。小児科医は本当に成育をみているのだろうか?心のひだに分け入っていくような援助が望まれるとのことでした。真のこどもの利益とはなんだろうか?小児期からの成人病予防だったり、愛着形成だったりするのではないかと話されました。

事前問診票の活用

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糸数智美先生(乳幼児学校保健委員会委員/どんぐりこども診療所)

糸数先生は宮崎県で開業されており、6つの保育園と幼稚園の園医をなさっています。園健診の問題点として、限られた時間のなかで多数のこどもたちの診察をするので、身体的初見をチェックすることで精一杯になりがちなこと、健診に園独自の慣習があること、事前問診票を利用している園と未利用の園では健診の格差が生じること、保護者の心配や困り事を知ることが困難であることを挙げています。これらを改善するために、宮崎県医師会園医部会作成の事前問診票を利用しているとのことでした。事前に問診票を回収し、ナースが陽性項目をチェックし付箋をつけ、ドクターがチェックするという流れです。問診票活用の利点は、成長・発達を事前に客観的にチェックできること、事前情報のある園児は特に意識して診察できること、予防接種歴の確認ができること、健診の効率と精度が上がることなどです。宮崎県では82%の園で問診票が活用されているとのことでした。宮崎県医師会のホームページからダウンロード可能なので、ぜひとも利用してみたいと思いました。

2歳児SVS検診、5歳児健診の試み

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川上一恵先生(乳幼児学校保健委員会委員/かずえキッズクリニック)

川上先生が開業されている東京都渋谷区では、0歳児保育を行う園には、毎月1回は訪問し健診を行うことになっています。先生は0歳児だけのための訪問ではもったいないと考え、2歳児SVS(SpotVisionScreener)検診と、5歳児健診を開始されました。2歳児SVS検診は、川上先生がSVSをこども園に持ち込み、検査を実施されています。利点としては、視機能障害を早期に発見でき、視力予後の改善が期待できること、見えるようになることで行動面の課題が軽減される場合があることですが、怖がって泣いてしまうと検査できないという課題もあります。5歳児健診は5歳児健診事業東京方式を使用されています。健診は視力検査、運動機能評価、こどもとの面談をして、レポート作成し園長と保護者へ報告するという流れです。5歳児健診によりこども個々の生活習慣や発達特性がわかり、保育における工夫が可能となったり、療育への橋渡しができたりという利点があるが、超えられなかった壁もあったようです。たとえば、公立保育園では一園だけ特別なことをやらないでほしいとか、5歳児健診の有益性が理解されなかったりとか、近隣の園医から「そんな時間をとれない」と言われたりとかです。せめて園医が時間をとれないということだけは解決したいと先生は述べられました。

総合討論

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シンポジウム 総合登録の様子

5歳児健診で使用するSDQ(アンケート)の判定基準、5歳児健診の実施時期、保育所へ通う外国人のこどもへの対応、事前問診票、保育士配置基準、健診回数の増加などについて、質問やご意見をいただきました。外国人のこどもについては、2年ぐらいしっかりと言葉を教える機会を作らないと小学校に行っても困ってしまうので、こどもたちに教育ができるように日本小児科医会で検討してほしいとの要望がありました。保育士配置基準に関連して、0歳児保育の必要性についてのご意見もありました。小学生以降の健診については、日本小児科医会が問診から進める個別健診ガイドブックを作成し配布しているので、小児科医がガイドブックの使い方を熟知し使いこなせるようになっていただきたいと思います。保育士にとって医師は高いハードルなので、何度も園に足を運んでハードルを低くし、コミュニケーションをとることが大事だろうと思いました。

総評

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松下享先生(公益社団法人日本小児科医会副会長)

本日のテーマは保育所・幼稚園における諸課題について、園医の活動を再考するということでした。午前中の講演では田草先生から園での取り組みをご紹介いただきました。表面的な園医の仕事だけをご紹介されたのではなく、御自身が園に赴かれて取り組んでおられることを、具体的にお話をいただきました。明日から我々園医が一つでもできればということを示唆いただいたと思います。
2つ目は出口先生に保育・教育施設での子どもの事故予防について講演をいただきました。ひとつひとつの事故を提示していただくだけではなくて、現状の問題点、そしてそれをどう変えていくかということも詳細にご提示いただいたと思います。
後半のシンポジウムでは、伊藤先生からは小児科医の哲学といいますか、気持ちの持ち方ということもご提示いただきました。それから糸数先生、川上先生も現在保育園で取り組んでおられる活動について、具体的にご提示いただきました。問診票の利用、素晴らしいことだと思いました。川上先生から2歳児検診、5歳児健診の内容について、取り組みについてもご提示いただきました。SVSを持っていって保育園で検診をするというのは素晴らしい取り組みだと思いました。また5歳児の健診に関しましては、現在は国がその5歳児健診を進めるような動きになっています。まさにそれに合致した活動であると思いました。ぜひこれも今後の課題として取り組むべき案件だと思いました。
今、国は5歳児健診、それから、1ヶ月健診について動きつつあるというのは冒頭の伊藤会長からのお話にもありました。とくに5歳児の健診に関しましては、全国標準化した形で取り組んでいこうとしています。その際に、担うのは小児科医だろうと思います。小児科医がこの機会を逃して、ちょっと無理だとかできないということになってくると、おそらく今後私たち小児科医の生きていく道も含めてですが、厳しい状況に陥るのではないかと思っています。ぜひ、地域で取り組んでいただきたいと思います。
先ほど神川前会長から思春期までの健診ということで取り組んできた話をいただきました。私ども2021年に個別健診ガイドブックを作成して、先生方には配布させていただいたと思います。米国のBrightFuturesを模した日本版BrightFuturesを目指した健診で就学児から思春期までのものを作成させていただきました。これをご活用いただいて、そしてその後の事後措置にまで十分対応できるようなシステムを個人だけでなく地域で取り組んでいただけたらと思っています。ぜひ、これからも伴走型の子育て支援に小児科医も十分参画して推進できるように、先生方のお力をお借りできればと思うところであります。本日は最後までご参加いただきましてどうもありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。来年は9月15日(日)を予定しています(会場未定)。