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2023/02/21

第1回 地域総合小児医療ブラッシュアップセミナー(後期)終了のご報告。

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第1回地域総合小児医療ブラッシュアップセミナー
「~ようこそ!!コミュニティペディアトリクスの世界へ~」(後期)報告
日本小児科医会 地域総合小児医療検討委員会 業務執行理事 藤田位

高評を博した前期に引き続き、本年1月に開催された後期セミナーの概要を報告します。

開催日時2023年1月29日(日)9:50~15:40
会 場:Live配信
参加者 事前申し込み286名、当日参加者195名でした。    
                                    (敬称略)
会長挨拶 伊藤隆一
今後かかりつけ医機能評価も進み医師の働き方改革がなされることで、地域医療の疲弊が進んでいくことが危惧されます。地域総合小児医療の担い手が地域としっかりと連携することが望まれます。


●日本小児科医会 会長 伊藤隆一


1)「かかりつけ医療機関で行う、生後2か月からの予防接種の機会を活用した子育て支援」
乳幼児学校保健委員会 稲光 毅
 乳幼児健診について考えるようになったのは、福岡地区小児科医会が編集した「乳幼児健診マニュアルに故松田一郎先生が寄稿された「健診は医療の延長ではない」「子どもの心の問題や育児支援なども考慮に入れた健診が求められている」という一文からです。現在子育ての孤立が進み、フィンランドのネウボラに代表される切れ目のない子育て支援が求められてきています。育児中の保護者とのコミュニケーションツールとして日本小児科医会が作成した生後2か月の予防接種時に使用してほしい問診票9項目について説明しました。かかりつけ医は生後2か月から始まるワクチン接種の機会をとらえ、成長発達を見守り様々な相談に応じることで子育ての伴走者の役割を果たし、地域のゲートキーパーになってほしいと思います。行政とかかりつけ小児科が信頼関係を構築し、かかりつけ小児科が子育て支援のハブとして機能することで、community pediatricsが実現できると考えています。


●日本小児科医会 業務執行理事(乳幼児学校保健委員会) 稲光 毅
 

2)「ワクチン忌避の背景を知り、その対策を考える」 

公衆衛生委員会 峯 真人
 ワクチン忌避の大きなきっかけになったHPVワクチン問題を振り返ることでワクチン忌避とその対策について考えてみます。思春期の女子にHPVワクチン接種する時の留意点として、1)接種希望者にワクチン接種の目的と予防可能な病気や子宮頸がん検診の重要性について説明する、2)接種方法や接種部位について説明し接種後の症状に伴うデメリットをできるだけ少なくする、3)接種後に起こり得る事象を説明する、4)非接種者の緊張状態を把握し安心して接種できる環境を作る、5)痛みや恐怖に耐えたことを評価しねぎらう、6)何らかの症状が出たり聴きたいことがあったり受診希望があったときはその訴えに真摯に向き合い丁寧に対応する、などが挙げられます。
 予防接種の副反応はワクチン液による有害反応だけではなく、接種を行うという行為そのものが多彩な症状を誘発する可能性があり、これを予防接種ストレス関連反応ISSRと呼びます。これを理解することで、ストレス反応の予防、診断、適切な対応が可能となります。ワクチン接種が必要な人に必要なワクチンを接種してもらうには、保護者のワクチンに対する考え方を知る、相手の気持ちに寄り添うこと、正しい情報を提供すること、医療現場で感じていることをお話しし、地域の感染症の発生状況を伝えるなどして納得して予防接種を受けてもらうことが大切です。予防接種はチーム医療であり、良い情報も悪い情報も関係者で共有して各医療機関にあった間違い防止対応マニュアルを作成してほしいと考えています。


●日本小児科医会 業務執行理事(公衆衛生委員会) 峯 真人


3)地域総合小児医療認定医制度についての説明
地域総合小児医療検討委員会 杉原雄三


4)「子ども虐待への対応~開業医としてできること~」                   

子どもの心対策策委員会 内海裕美
  「もし疑わなければ、もし通告しなければ、私たちは子どもたちにとっていつでも加害者になる可能性があることを忘れてはならない(坂井聖二先生)」のです。子育て支援の最終目標は虐待防止だと考えています。虐待を受けて何とか一命をとりとめた子でも、脳の障害、身体の障害、心の障害(愛着の形成不全、基本的信頼の欠場、低い自己肯定感など)を起こします。
 一次医療機関の役割は、疑うこと、加害者を責めないこと、子どもの安全確保、通告すること、早期に関係者会議を開催すること、診断書を作成すること、ケース会議へ継続的に参加することであり、単なる発見者や通告者であってはなりません。そのためには子どもを診るときは、鑑別疾患に児童虐待を常に忘れずに頭にとどめておくことが大切です。また加害者の心性ステージにも注意をはらう必要があります。親の権利が子どもの権利に優先するのだという体罰肯定の親、体罰が虐待レベルまでになり悩んでいる親、虐待は認めているがその原因が子どもにあると考えている親は我々の周りに多く存在し、私たちが関わることで虐待防止できる可能性があります。加害者を責めず相手の立場になって考えてみると、加害者も被害者であることや児童虐待は機能不全家族からのSOSであることがわかります。虐待防止のためには親子とも守ることが重要で、日常的な子育て支援が大切です。


●日本小児科医会 業務執行理事(子どもの心対策委員会) 内海裕美


5)「小児救急医療情報ツールの活用(EMIS、#8000など) 
小児救急医療委員会 渡部誠一
 小児救急医療情報ツールが必要になった背景には、子どもが急病の時の保護者の不安に応える体制ができていないことが一番に挙げられます。受診すべきか(受診の判断)、どこで診てもらえるか(医療機関を探す)の小児救急ニーズに対して、インターネットと電話相談を用いる4つの小児救急医療情報ツールが開発されました。
 こどもの救急ONLINEは受診判断をWebで行う、こども救急ガイドブックは受診判断・その他の小児救急情報を冊子・Webで提供する、#8000は電話相談対応、救急医療情報システム(EMIS)は都道府県が提供する医療機関案内です。これら4つの小児救急医療情報ツールにはそれぞれ特徴があり、それに合わせた利用法も含めて認知率の向上が必要です。統一性、保護者の利便性への配慮も必要です。小児救急医療情報ツールを有効活用するためには、保護者の観察力・判断力を高め保護者に子どもの症状の見方と表現する力を身につけてもらう必要もあります(家庭看護力醸成)。小児救急医療情報ツールの活用には、客観的評価と、均てん化への継続的働きかけが必要です。


●日本小児科医会 業務執行理事(小児救急医療委員会) 渡部誠一

 
閉会挨拶 副会長 佐藤好範
 日本小児科医会8委員会で講師を務めていただき感謝申し上げます。今回の講演のキーワードはかかりつけ医、子育て支援、子どもの成長を見守ることでした。これらはすべて明日の診療にも役立ちますが、10年、20年後の小児科医の必要な知識でもあると確信しています。令和5年度にも第2回を開催する予定ですのでぜひご参加ください。
本日はご聴講ありがとうございました


●日本小児科医会 副会長(地域総合小児医療検討委員会) 佐藤好範


まとめ)

 全国143名の参加者からアンケートのご協力いただいた。勤務医からは、「子どもや親への支援に関して様々な方法で小児科医が貢献できることがわかった。」「個々の疾病以外で小児科医に大切な項目が中心になっていたので良かった。」「もう一度基本に立ち返れた。」「日常診療を見直せる。」「個々の疾病以外で小児科医に大切な項目が中心になっていたので良かった。」「医師としての在り方を見直せる。」などの回答がありました。
 Community Pediatricsは日常の診療を行いつつ地域をも見守っている小児科医にとって大切な実践です。令和5年度も前後期2回開催する予定です。