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2022/11/29

第1回 地域総合小児医療ブラッシュアップセミナー(前期)終了のご報告。

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第1回地域総合小児医療ブラッシュアップセミナー
「~ようこそ!!コミュニティペディアトリクスの世界へ~」(前期)報告
日本小児科医会 地域総合小児医療検討委員会 業務執行理事 藤田位

Community Pediatricsとは子どもの総合医として小児科医が地域で行っている医療・保健・福祉の実践のことで、小児科医のアイデンティティそのものです。多くの小児科医にその醍醐味を味わっていただきその重要性を認識してもらいたいとの当委員会の思いから開催しました。
                                    (敬称略)
会長挨拶 伊藤隆一
子どもの健康を守りたいと考え、今から小児科を本格的に学ぼうとする医学生や研修医、そしてすでに第一線で活躍している小児科医に日本小児科医会はCommunity Pediatricsを勉強していただく機会を設けました。これまで日小医の各委員会で検討されてきたことを中心に講演していただきます。視聴者の方々にはぜひ今後の活動に役立たせてください。


●日本小児科医会 会長 伊藤隆一

1)「これからの地域総合小児医療:日本版Community Pediatricsを目指して」

地域総合小児医療検討委員会 佐藤好範
 日本小児科医会のアイデンティティは子どもの総合医であり、かかりつけ医であることです。かかりつけ医は、医療・保健・福祉の連携のためCommunity Pediatricsの確立を目標に地域総合小児医療を展開していく必要があります。医療の進歩や予防接種の普及、疾病予防のための早期介入、虐待や貧困などの社会的因子による健康問題、医療的ケア児等福祉との連携、子育て支援、これらを実践するための多職種連携など小児医療の質は変容しているとともに多くの課題を抱えています。今後子どもの総合医として、育児支援者としてそして代弁者として地域医療に関わっていかねばなりません。20年後の地域小児医療の担い手としてすべての小児科医は地域総合小児医療認定医に成っていただき、小児科医の誇りと魂を形にしてほしいと願っています。


●日本小児科医会 副会長(地域総合小児医療検討委員会) 佐藤好範 

2)「保険診療から見た小児科医の未来」 

社会保険委員会 大山昇一
 過去20~30年の診療報酬の変遷を見ると、新生児医療の普及(小児在宅医療の展開)、小児救急受診者の増加に伴う病院小児科医の疲弊、専門医制度の開始、成育基本法の成立、新興感染症の出現など、時代の要請があって診療報酬が変わってきました。今後子どもは親が育てる時代から社会が育てる時代に変容していきます。子ども家庭庁への期待は膨らみ日本小児科医会は協力を惜しみませんが、診療報酬制度への波及も期待するところです。小児科医はこれまで必要な施策を着実に実践してきた唯一の科であり、小児科医が必要とする施策を粘り強く説明し続ければ診療報酬として認められる可能性が高いのです。そのためには今後も魅力的な施策を提案できるかが重要です。

3)地域総合小児医療認定医制度についての説明
地域総合小児医療検討委員会 佐藤 勇

4)「子どもとメディア」                   
子どもとメディア委員会 内海裕美
 1953年のテレビ本放送が開催され、ビデオやゲーム機の普及など子どもの周囲には電子映像メディアを初めてとする電子機器があふれてきました。70年たった今ではスマートフォンが多くの子どもも利用しており、ゲーム機の普及だけの時代に危惧された体力・視力・生活リズムの乱れ・生活習慣病だけでなく、今や育児の世界にもスマホは入ってきて子守をも行っている時代となっており、乳幼児の愛着形成・言葉の発達も懸念されています。今やスマホ・パンデミックの時代と言っても差し支えありません。子どもの育ちに必要な眠ること、食べること、遊ぶこと、愛されることを電子メディアは奪ってきていることに気づいてください。アメリカ小児科学会でも生後18か月まではメディアを避けること、2~5歳は一日1時間まで、6歳以後は視聴時間と内容を制限することを提言しています。またオンラインゲームへの依存への対応が必要です。早く手を打てば小さい子どもはオンラインゲームから抜けだしやすいが、一度依存になれば治癒が難しい等、小児科医が親に伝えることは多いのです。医会では「スマホに子守をさせないで」「遊びは子どもの主食です」など資料を作成し警鐘を鳴らしてきましたが、実体験を通して子どもが成長し社会に役立つ人となることを伝えていかねばなりません。

5)「プライマリ・ケアでも必要とされるグローバルヘルスの基礎知識」 
国際委員会 水野泰孝
 グローバルヘルスとは、地球規模での健康課題あるいはそれについて研究する学問で、その起源は植民地主義時代の熱帯医学です。今国境を超える感染症リスクの増大や気候変動や地球温暖化などの疾病構造の変化に対応する新たな概念として提唱されています。
一般常識として知っておいてほしいのは、世界3大感染症とは、AIDS・マラリア・結核であり、人を殺す動物の一番手は蚊だということです。子どもの死亡原因は周産期の問題と感染症です。グローバル化が進んできている今日において、地域医療を担う小児科医が日常診療で遭遇することは決してまれではない1)海外渡航・留学する際に必要なトラベラーズ・ワクチンの基礎知識、2)海外赴任する際に子どもを帯同する際に必要な現地生活のための英文診断書作成、3)海外から帰国して体調不良になり受診されたときに必要となる輸入感染症の基礎知識と感染対策、4)在日外国人が健康上の問題で受診した際の外国人診療と医療通訳についてまとめました。

まとめ)
各講演は地域総合小児医療を実践するのに必要な知識であり、経験値のある医師にもわかりやすく伝えていただきました。アンケートにご協力いただいた99名全員(多くは60歳台の開業医)から今回のセミナーが役に立った、次回も参加したいとする回答がありました。またウェブ開催することで若手の医師を含めた多くの方々が参加可能となりCommunity Pediatricsを理解することができた、アーカイブも用意してほしいなどの回答が寄せられました。実際は若手医師からの参加は少なく、今後の課題として若手医師への広報や講演内容の検討も必要です。 Community Pediatricsは日常の診療を行いつつさらに実践しなければならない地域を見守る小児科医にとって大切な活動です。来年1月29日に開催予定の後期セミナーへの参加をお願いするとともに、今後もさらにセミナーそのもののブラッシュアップに努めたいと考えています。