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2023/10/31

【第10回 地域総合小児医療認定医指導者研修会】報告

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第10回 地域総合小児医療認定指導者研修会 報告


  研修会は令和5年10月15日(日)にビジョンセンター浜松町で開催されました。参加者17名でした。今回は、子どもの死とグリーフケアがテーマでした。子どもの死亡検証(CDR)についての基礎知識と、残された家族にとってのケアは、地域のコミュニティの小児科医にとって必要な知識です。

まず伊藤会長の挨拶がありました。

~プログラム~

1)日本小児科医会 伊藤 隆一 会長 (挨拶)



2)[講演]1

「日本のチャイルド・デス・レビューの現状と課題」 天使病院小児科 佐々木 理 先生


要旨:
 2018年に制定された生育基本法には子どもが死亡した原因に関する情報を収集、管理、活用する体制の整備、データベース、その他必要な施策を講ずることが明記されている。その施策の一つであるチャイルド・デス・レビュー(CDR)は防げる死から子どもを守ることが最終目的で、現在CDR整備体制モデル事業が全国9か所で行われている。地方公共団体が主導し全ての子どもの死を対象に行われるが、法整備をはじめ体制は十分ではなく、今後CDR体制の整備と啓発が行なう必要がある。医療者はCDRを通じてどのような医療が適切であるかを考え、子どもの安全安心を見据えたよりよい医療を提供できるように努力する必要がある。


3)[講演]2
「子どもの死とグリーフケア」 富山大学小児科  種市 尋宙 先生


要旨:
 グリーフケアとは近親者の喪失に対する深い悲しみからの回復を支援することである。避けがたい死は小児にも存在し、このような場面でグリーフカードなどの活用を活用し、家族・きょうだいらとどのように大事してきたかについて考える。子どもの死への対応は病院小児科医のみのフィールでではなく、かかりつけ医にとっても重要な役割であり、小児科医がその存在意義を明確に示せる重要な医療である。グリーフケアに関する調査研究を踏まえグリーフケアにおける小児科医の役割について考えてみる。また日本小児科学会が開催しているJPLSを紹介する。


4)[講演]3
「グリーフケアことはじめ」 淀川キリスト教病院公認心理師 出崎 躍 先生


要旨:
 死別体験は自分だけの苦しみにとどまらず、しばしば周囲との人間関係を断ち切ることになり、それにより孤立感が一層増幅されてしまう。傷つきながら誰にも心境を明かせない理解されないという心理社会的断絶状態に陥ってくる健康状態の悪化、バーンアウト、自殺念慮の増大に直結する。グリーフケアとは大切な存在を失った人の必要としていることに資する営み全般を指す言葉である。グリーフケアが必要と思ってもいざ当事者を前にすると自分になにができるのか何を言えばわからないことがある。今回は総合病院で行っているグリーフケアにおいて求められる心構えや実際のかかわりについて講演する。


講演3題のあと、グループワークによるロールプレイを行いました。


【目標】
子どもを亡くした家族の訪問にどう対応するか考えてみる。
子どもを亡くした家族とのコミュニケーションをロールプレイで体験する。

【設定】
あなたは〇〇病院/医院の職員です。

【症例:2歳女児】
生後2か月の予防接種開始からずっと診てきたかかりつけの患児
しばらく来院なし。ある日、母から弟の予防接種の予約の電話がありました。その電話で,実は本人が他院に救急搬送されて急に亡くなったこと、インフルエンザ脳症であったこと、四十九日法要をすませたところという話がありました。電話を受けた事務員は、とりあえず予防接種の予約を1週間後に通常通り入れ、上記を医師、看護師に報告しました。

【ロールプレイ】
参加者は4グループに分かれ、医師役と看護師役になり子どもを亡くした保護者の聞き手となりました。地域総合小児医療検討委員会委員はファシリテーターとして参加し、亡くなった子どもの保護者役を務めました。


最後に、本日の講師3名からコメントをいただき、佐藤 副会長から閉会の挨拶のあと終了となりました。


まとめ
 今回は大変学びの多い研修会となりました。参加者全員が、小児科医としてレベルが一段上がったように感じたのではないでしょうか。最後に後日、講師からいただいたメッセージを転記します。

 佐々木先生:グリーフケアは死亡する前からはじまって、死亡した後も病院から離れても、クリニックや地域の中で続いていることを痛感しました。そして、適切にグリーフケアをすることがCDRにも繋がりますし、CDRで正確な死因究明を行うこともグリーフケアにつながるため、CDRのなかでどのようにグリーフを扱っていくか、小児科学会のCDR委員会の中でも話し合っていきたいと思います。


 種市先生:今回の研修会でさまざまな意見交換、議論をすることができ、とても有意義な時間でした。子どもの死に対して、今回の企画のようにクリニックの先生から病院医師、臨床心理士と一同に集まって議論する機会があるということはとても大きな意義を感じています。そしてみなさん、真剣で熱い思いを持って議論をされていました。もしかすると遺族、患児が望んでいるもの、そのものがこのような風景なのかとさえ思いました。自分自身も非常に勉強になる研修会でした。


 出崎先生:今回のスライドを準備させていただく過程で、自分の取り組みをじっくりと振り返ることができましたし、また今後の取り組みをさらに充実させたいと気持ちが引き締まりました。講演の後のグループワーク、そして講師とフロアの先生方とのセッションについては、研修として良い流れだったと思いますし、運営に携わっておられた先生方の企画力が素晴らしいと感じました。


文責:日本小児科医会 地域総合小児医療検討委員会
   業務執行理事 藤田 位 


●開催においてご尽力いただいた先生方