日本小児科医会会員アンケート調査が MRワクチン定期接種期間延長決定に大きく貢献‼

「ワクチンが足りない。でも接種期限は迫ってくる――」
そんな切迫した現場の声に耳を傾け、全国の小児科医たちが立ち上がりました。日本小児科医会が実施した緊急アンケート調査は、数多くの現場からリアルな声とデータを集約し、国の政策判断を後押ししました。異例のかたちでMRワクチン定期接種期間延長が決定されるという、大きな転換点となりました。その過程をご紹介します。
1回目調査実施
2024年1月、武田薬品工業株式会社のMRワクチン力価低下問題で、ワクチンの一部回収と有効期限短縮措置が実施されました。これに加え他社同種ワクチンの出荷調整が行われたことにより、全国の医療機関等でワクチンの供給不足が生じました。 さらに2024年11月、武田薬品工業株式会社は力価低下の原因究明のために2025年3月末までの同ワクチン出荷全面停止を実施しました。
これらの事態を受け、年度末に向けてのMRワクチンの供給不足が一層深刻になることが危惧されたため、日本小児科医会公衆衛生委員会は2024年12月末時点での医療機関へのMRワクチン供給状況と接種状況を把握するために日本小児科医会会員を対象としたアンケート調査を実施しました。
⽇本⼩児科医会 MRワクチン供給・接種調査 集計結果.pdf
本調査から
- MRワクチンは半数以上の医療機関で供給不足。
- MR1期で約4割、2期で半数近くの医療機関で接種遅滞がある。
- MR1期、2期ともに約2割の医療機関で通常通り予約ができていない。
- 4分の1の医療機関が風しん5期の接種希望者に接種できない。
などの結果がえられました。
当時の厚生労働省の見解と現場の相違
一方厚生労働省による武田薬品工業株式会社以外の2社や卸業者への聞き取りから、MRワクチンの増産や前倒し出荷により、本年度内の供給量は前年度と同程度に回復するとの見解が示されました。
しかし現場感覚として供給不足感がいぜんとして強いことから、実情を再調査する必要があると考え、1か月後に2回目の調査をおこない、流通の問題を調査するために取引のある卸業者についての設問を追加しました。
2回目調査実施
日本小児科医会MRワクチン供給・接種調査集計結果(第2報).pdf
その結果2025年1月時点と2月時点での供給状況は、2割が改善、7割が変化なし、1割が悪化との結果でした。また卸業者によりワクチン供給量に差があり、取引卸業者数によっても、供給量に不均衡があることが分かりました。
またMRワクチン定期接種期限において、約8割の医療機関から「延長が必要」との回答が寄せられました。
調査結果をうけて
以上の2回の調査結果よりMRワクチン第1期、第2期、風疹ワクチン第5期において定接種期間の延長が必須と判断し、厚生労働省感染症対策部予防接種課担当者との度重なる協議を行い、日本小児科医会だけでなく日本小児科学会などからの正式な要望書の提出を待たずに、しかも第67回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会基本方針部会では、本件について承認という形ではなく報告という形で、異例の決定で定期接種期間の延長が発表されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001440529.pdf
なお基本方針部会報告においては日本小児科医会の2回の調査結果が方針決定の資料として示されており、日本小児科医会の多くの会員に協力いただいた調査結果が、年度内にMRワクチン定期接種期間延長の決定・周知に大きく寄与したことは非常に意義深いと感じています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001453817.pdf
今後も日本小児科医会会員の先生方との協力で、現場感覚に沿ったデータなどの集積・分析・考察がなされ、そのデータをもって、国などの行政機関に行動変容を促すことできるような体制が構築されることを期待しています。 繰り返しになりますが、この度の会員各位の協力に対し、日本小児科医会そして、公衆衛生委員会より心から感謝申し上げます。
公益社団法人日本小児科医会
会長 伊藤 隆一
公衆衛生委員会
業務執行理事 峯 眞人
委員長 片岡 正