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2023/04/27

【詳細版】お子さんの重症化や死亡例を防ぐために新型コロナウイルスワクチンを受けさせてあげましょう!

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2022年のオミクロン株の出現により状況は一変

新型コロナウイルスの流行初期には、子どもはかかりにくく、かかっても軽症で、基礎疾患がなければワクチンを接種する必要はないという情報が広がりました。しかしながら2022年になりオミクロン株の流行が始まると、感染者の増加に伴い状況は一変しました。この時期の感染者の約3割が20歳未満の子どもを含む年少者です。子どもの感染者の多くは軽症ですが、感染者が増加するとともに、脳炎などを合併し重症化する例や、死亡例も増加しています。『新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報)』では、2022年1月1日から9月30日までの死亡62例のうち、不慮の事故など外因性死亡を除いた内因性死亡は50例と報告されています。これは、新型インフルエンザの死亡例(20歳未満で41例)を上回っています。20歳未満の死亡例は2021年の秋に報告されてから2023年2月までに57例、また10歳未満のお子さんはそのうち38名の死亡例が報告されています。(図1)。
図1:20歳未満の新型コロナウイルス感染累積死亡数(2021年9月~2023年2月)
データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-https://covid19.mhlw.go.jp/

図1_uncategorizeda322.jpg

小児のコロナウイルス後遺症

新型コロナウイルス感染後には、複数の臓器に強い炎症を起こす小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や、感染後長期にわたり種々の症状が持続する後遺症(Long COVID)を合併することがあります。MIS-Cでは感染2週から6週後に、発熱以外に胃腸症状(腹痛、嘔吐、下痢など)、循環器症状(心機能低下、心筋炎など)、皮膚症状(発疹など)など、複数の臓器の異常がみられ、ショック症状などを呈し集中治療を要することがあります。子どものLong COVIDはその機序がまだ十分には解明されていませんが、頭痛、倦怠感、睡眠障害、集中力の低下などの頻度が高いことが報告されています。MIS-CやLong COVIDの発症は、基礎疾患の有無やコロナ感染時の重症度に関係なく起こります。子どもの場合、これらは日常生活や学習に支障をきたし、将来に影響を及ぼす可能性があります。

小児へのコロナワクチンの副反応は成人に比べ少なく軽症

保護者の方々の中には、ご自身のコロナワクチン接種の際の高熱や疼痛体験などのために、お子さんへ の接種をためらう方がいらっしゃると思いますが、5~11歳の接種量は成人の3分の1、生後6か月~4歳は10分の1であり、子どもたちへのコロナワクチン (mRNAワクチン)接種の副反応は比較的軽く、頻度も少ないことが明らかになってきました (図2)。
図2:新型コロナウイルスワクチン小児接種の副反応アンケート結果(東京都港区)
港区ホームページ(city.minato.tokyo.jp) 『副反応アンケート結果について』(令和5年4月11日公表分)
乳幼児の接種は令和4年10月末から開始、2回目が3週後、3回目は2回目から8週後のため、3回目の症例数は40名。2回目の結果は1回目とほぼ同様のため図には不掲載。各回ともに接種後2日目に副反応が多いため、2日目を掲載。図2uncategorizeda322.jpg

mRNAワクチンは新型コロナウイルスの持つ遺伝情報 (ウイルスの設計図)のごく一部を用いたものが使われており、ヒトのDNAには取り込まれません。またmRNAは接種後数分から数日といった時間の経過とともに分解されるので、その情報が長期間体内に残ったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれたりすることもありません。 https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0008.html

コロナウイルスの自然感染とmRNAワクチン接種の違い

子どもがワクチンを受けて起こる副反応は、もし本当に新型コロナウイルスに感染すれば起こりうる症状より軽微なもので、 安全性に重大な懸念はないとされています。他方、新型コロナウイルスに感染した場合にはワクチンを受けたときよりも強い症状や多彩な症状が起こりうるので、ワクチン接種に伴う副反応に比べると、感染した場合の症状と身体への長期的な影響や生命への危険の方がより懸念されます(図3)。
図3:コロナウイルス2019の感染とmRNA ワクチン (図は近畿大学医学部免疫学宮澤正顯教授より提供)図3_uncategorizeda322.jpg

ワクチンの重症化予防効果について

保護者の方の中には、ワクチンを接種したのにかかってしまったと、ワクチンの効果について疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

そこで新型コロナワクチンは感染を防ぐ効果は長続きしないけれども、それでも重症化予防の効果的がある理由について説明したいと思います。

ウイルスに感染すると気道などの粘膜に炎症が起き赤く腫れますが、この時血液成分が流れ出します。ワクチンでできる中和抗体の多くはIgGという種類のものですが、これが血管から周囲へと流れ出すことで、周囲に感染が拡がるのを防ぐことができます。

 一方、粘膜で感染が起こると粘膜の現場にもIgAという抗体を作る免疫細胞(抗体産生細胞)が出て来ます。このIgAは、粘膜の表面をおおう上皮細胞がこれをくっつけ、細胞の中を通り抜ける形で粘膜の表面に運びます(分泌型IgA)。この抗体があればウイルスを水際でシャットアウトすることができるのです(「遮断免疫」)(図4)。
図4:感染防御と重症化防止のメカニズム(図は近畿大学医学部免疫学宮澤正顯教授より提供)図4_uncategorizeda322.jpg

現在使われているワクチンでも、リンパ節でIgA抗体はできますが長続きしません。大切なのはワクチンにより免疫反応に記憶が残ることです。抗体を作る元になるリンパ球は、いつでもIgG抗体を作れる準備をした状態で待っています。この「記憶細胞」は、いざウイルスが入ってくれば速やかに大量のIgGを作り出して、感染の拡がりを抑え重症化を防ぐことができるのです。また、ワクチン接種を受けた人たちの方が、そうでない人たちに比べ、かかった時に排出するウイルス量が少なく、他の人への感染性が減ることもわかっています。
新型コロナウイルスにかかっても、免疫の持続期間が短いのがこのウイルスの特性です。mRNAワクチンはスパイク蛋白しか作らせないので、この部分に変異が入ると、ワクチンの効果が下がってしまいますが、免疫を繰り返すと変異しないで残っている共通構造部分に反応する免疫細胞も増えてくるので、反復投与により免疫がある程度長く続くのです。

おわりに

ワクチンを含めてどんな医薬品にも、副反応がまったく無いものはあり得ませんが、特に小さなお子さんのワクチンについては、その時点で健康なお子さんに注射するだけに抵抗感がぬぐえずにいるのではないでしょうか。免疫応答を誘導するということは、炎症の元となるサイトカインという物質の産生を伴う反応を起こさせることで、発熱や倦怠感を伴うことがあります。一方、乳幼児用コロナワクチンのmRNAの量は成人のワクチンの10分の1で、強い副反応は稀です。また、将来への不安に関しては、新型コロナウイルス感染症にかかった場合のリスクの方がはるかに高いことについて、保護者の方にも子どもたち自身にも理解していただきたいと思います。
さて、世界保健機関(WHO)の予防接種に関する専門家の戦略的諮問グループ(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization:SAGE)は2023年3月28日、オミクロン株の影響と集団レベルの高い免疫を反映し、新型コロナワクチンの使用優先順位のロードマップを改訂しました。ワクチン接種の優先使用グループとして、高、中、低の3つを設定していますが、これらの優先順位は、主に重篤な疾患や死亡のリスクに基づき、ワクチンの性能、費用対効果、プログラム上の要因、地域の受容性を考慮しています。重要なのはその国特有の状況と年齢層ごとの健康と幸福を考慮することであり、特に小児の定期接種を犠牲にすべきではないことが強調されています。 日本でもこのロードマップの報道はなされていますが、細かいニュアンスが伝わらず、特に、「2回以降『推奨せず』WHOが指針見直し」「健康な子供必要なし」などの見出しは、ミスリードと言わざるをえません 鈴木貞夫|電子コンテンツ|日本医事新報社 (jmedj.co.jp)。
インフルエンザが年に1回冬に流行する感染症なのに比べ、新型コロナウイルス感染症は年に2~3回流行を繰り返しています。海外と異なり、日本ではまだ罹患していないお子さんやご家族が多い現状にあり、ワクチン接種率の低い地域や集団でこれからもしばらくの間は流行が起こり、重症者や死亡者が増えることが予想されます。またいつ感染力や病原性の高い変異株の流行がおきるかもわかりません。一度かかったから大丈夫だろう、子どもは軽症だから、自分の子どもも大丈夫とは限りません。新型コロナウイルスの治療薬も登場しましたが、今のところ12歳以上にしか使えません。マスクを気にせず思い切り遊びたい子どもたちのために、今できる有効な対策の一つがワクチン接種なのです。2023年5月のゴールデンウィーク明けには感染症の類型も5類となりますが、病原性は変わっていません。国は当面ワクチン接種の公費負担の延長を決めています。私たち小児科医も子どもたちの日常を一日も早く取り戻したいと切に願っています。ぜひ子どもたちにコロナワクチンを受けさせてあげてください。