【簡易版】お子さんの重症化や死亡例を防ぐために新型コロナウイルスワクチンを受けさせてあげましょう！
新型コロナウイルスの流行初期には、子どもはかかりにくく、かかっても軽症で、基礎疾患がなければワクチンを接種する必要はないという情報が広がりました。しかしながら2022年になりオミクロン株の流行が始まると、感染者の増加に伴い状況は一変しました。この時期の感染者の約3割が20歳未満の子どもを含む年少者です。子どもの感染者の多くは軽症ですが、感染者が増加するとともに、脳炎などを合併し重症化する例や、死亡例も増加しました。海外の新型コロナウイルス感染症の入院患者における神経筋合併症を調査した結果では、成人では脳卒中が多く，小児では中枢神経感染症とけいれん発作が多いことが報告されています。（図１）Brain, awac332, https://doi.org/10.1093/brain/awac332,Published: 10 September 2022
日本では2022年1月1日から9月30日までに50例の死亡例が報告されています。これは、2009年に流行した新型インフルエンザの（20歳未満で41例）を上回っています。また10歳未満のお子さんも2022年の春に死亡例が報告されてから、流行のたびに増加し2023年１月末までに38名の死亡例が報告されました。
また、新型コロナウイルス感染後には、複数の臓器に強い炎症を起こす小児多系統炎症性症候群（MIS-C）や、感染後長期にわたり種々の症状が持続する後遺症（Long COVID）を合併することがあります。MIS-Cでは感染2週から6週後に、発熱以外に、複数の臓器の異常がみられ、ショック症状などを呈し集中治療を要することがあります。子どものLong COVIDはその機序がまだ十分には解明されていませんが、頭痛、倦怠感、睡眠障害、集中力の低下などの頻度が高いことが報告されています。子どもの場合、これらは日常生活や学習に支障をきたし、将来に影響を及ぼす可能性があります。
保護者の方々の中には、ご自身のコロナワクチン接種の際の高熱や疼痛体験などのために、お子さんへ の接種をためらう方がいらっしゃると思います。ワクチンを含めてどんな医薬品にも、副反応がまったく無いものはありません。特に小さなお子さんのワクチンについては、その時点で健康なお子さんに注射するだけに抵抗感がぬぐえずにいるのではないでしょうか。ワクチンによって免疫応答を誘導するということは、炎症の元となるサイトカインという物質の産生を伴う反応を起こさせることで、発熱や倦怠感を伴うことがありますが、コロナワクチン （ｍRNAワクチン）の5～11歳の接種量は成人の3分の１、生後６か月～４歳は10分の１で、子どもたちへの接種の副反応は成人に比べ少なく、また症状も軽いことが報告されています。
mRNAワクチンは新型コロナウイルスの持つ遺伝情報 （ウイルスの設計図)のごく一部を用いたものが使われており、ヒトのDNAには取り込まれません。またｍRNAは接種後数分から数日といった時間の経過とともに分解されるので、その情報が長期間体内に残ったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれたりすることもありません。
子どもがワクチンを受けて起こる副反応は、もし本当に新型コロナウイルスに感染すれば起こりうる症状より軽微なもので、 安全性に重大な懸念はないとされています。他方、新型コロナウイルスに感染した場合にはワクチンを受けたときよりも強い症状や多彩な症状が起こりうるので、ワクチン接種に伴う副反応に比べると、感染した場合の症状と身体への長期的な影響や生命への危険の方がより懸念されます
保護者の方の中には、ワクチンを接種したのにかかってしまったと、ワクチンの効果について疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。現在使われている様々なワクチンでも、水際でウイルスを遮断するIgA抗体はできますが長続きしません。大切なのはワクチンにより免疫反応に記憶が残ることで、抗体を作る元になるリンパ球は、いつでもIgG抗体を作れる準備をした状態で待っています。この「記憶細胞」は、いざウイルスが入ってくれば速やかに大量のIgGを作り出して、感染の拡がりを抑え重症化を防ぐことができるのです。また、ワクチン接種を受けた人たちの方が、そうでない人たちに比べ、かかった時に排出するウイルス量が少なく、他の人への感染性が減ることもわかっています。
インフルエンザが年に１回、冬に流行する感染症なのに比べ、新型コロナウイルス感染症は年に２～３回流行を繰り返しています。ワクチン接種率の低い集団ではこれからもしばらくの間は流行が起こり、重症者や死亡者が増えることが予想されます。またいつ感染力や病原性の高い変異株の流行がおきるかもわかりません。一度かかったから大丈夫だろう、子どもは軽症だから、自分の子どもも大丈夫とは限りません。新型コロナウイルスの治療薬も登場しましたが、今のところ１２歳以上にしか使えません。マスクを気にせず思い切り遊びたい子どもたちのために、今できる最も有効な対策がワクチン接種です。国は当面ワクチン接種の公費負担の延長を決めました。私たち小児科医も子どもたちの日常を一日も早く取り戻したいと切に願っています。ぜひ子どもたちにコロナワクチンを受けさせてあげてください。
